腫瘍や炎症、潰瘍などの器質的異常が認められず、大腸の蠕動運動の低下など機能性の異常のみが認められる過敏性腸症候群(IBS)。下痢または便秘、下痢と便秘を交互に繰り返すといった症状が長期に渡る病気です。過敏性腸症候群(IBS)を引き起こす原因は様々ですが、その一つに下剤の乱用があります。
このページでは、過敏性腸症候群(IBS)における下剤のリスクと、根本治療の方法を解説します。
過敏性腸症候群(IBS)とは
10代〜30代と若年層を中心に増加している過敏性腸症候群(IBS)はストレスと深い関係があるため、特に先進国での罹患率が高い病気です。自律神経の乱れにより症状があらわれますが、腸管には腫瘍や潰瘍といった器質的な異常が認められないため、診断が難しい病気の一つと言えます。過敏性腸症候群(IBS)は下痢または便秘、もしくは便秘と下痢が数日おきに交替で起こる症状が2ヶ月以上、週に一度以上の割合で続きます。
過敏性腸症候群の症状の原因は、大きく分けて2つと考えられています。一つは、自律神経のバランスが乱れた結果、不安や緊張といったストレスが自律神経や液性因子(ホルモン、サイトカインなど)を介して腸の異常な蠕動運動を引き起こしているもの。
もう一つは神経伝達物質「セロトニン」の影響です。精神の安定に関わるセロトニンは約90%が腸内で作られますが、腸内フローラのバランス崩壊により産生過多が起こると自律神経に影響を与えます。ストレスによって腸のセロトニンが過剰に分泌されると腸内のセロトニン受容体と結合し蠕動運動に異常が発生。それにより腸の不快感、腹痛、下痢などを引き起こされると考えられています。
腸と脳は「腸脳相関」と言われるほど密接な関わりがあり、自律神経やホルモン、サイトカインを介し、伝達しあっているため過度の緊張やプレッシャー、ストレスなどが引き金となり、症状が引き起こされます。
過敏性腸症候群(IBS)と下剤
便秘が続けば下剤を服用するのは自然なことでしょう。しかし下剤を乱用することによって大腸や小腸は刺激を受け続けることになり、敏感な状態になります。特に過敏性腸症候群(IBS)の原因となる下剤はセンナやダイオウなどの刺激性下剤。これらを繰り返し頻繁に服用し続けると過敏性腸症候群に罹患する可能性が高まります。罹患を防ぐためにも、便秘の根本的な原因を探り、下剤の服用の見直しをはかりましょう。なかなか改善しない場合は医師にご相談を。
過敏性腸症候群(IBS)の症状
「2ヶ月以上、下痢もしくは便秘が続いている」「下痢と便秘を交互に繰り返す」「不安や緊張といったストレスによって急に激しい腹痛に襲われる」「ガス漏れが続く」「人が背後にいるとガスが止まらなくなる」「急にトイレに行きたくなるので外出が不安」「ストレスを感じやすい」「頭痛が続く」「慢性的に吐き気がある」「うつっぽい」
これらの症状が2ヶ月以上続きながらも、器質的異常が認められない場合は過敏性腸症候群(IBS)に罹患している可能性があります。
症状は便の形状によって便秘型、下痢型、混合型(便秘と下痢を交互に繰り返す)、分類不能型の4タイプに大別されます。
下痢型
男性に多く、少しでもストレスを感じると下痢を引き起こします。腹痛を伴うことが多く、便に粘液が混ざることもあります。
便秘型
女性に多く、ストレスにより便秘が続きます。硬い便やコロコロ便が多いです。
混合型
腹痛及び腹部の違和感、下痢と便秘が複数日間隔で交互に現れます(交代性便通異常)。
分類不能型
上記いずれにも当てはまりませんが、便の形などで判断します。
また、ガスがずっと漏れ続ける症状も見られ、背後に人が立つとかならずガスが漏れてしまうという患者さんもまれに見られます。
過敏性腸症候群(IBS)の治療方法
過敏性腸症候群(IBS)の一般的な治療については食事療法、薬物療法、心理療法、そして運動療法が挙げられます。
過敏性腸症候群(IBS)の食事療法・運動療法
過敏性腸症候群(IBS)を改善するためにまず行いたいのは、生活習慣の見直しです。食事においては食べ過ぎや脂質過多、刺激の強い食生活を見直し、食事の時間をなるべく規則正しくするようにしましょう。お腹のことを考えた調理法、食材を取り入れることも大切です。飲酒や喫煙も控えめに。また質の良い睡眠を取るよう心がけ、適度な運動を取り入れましょう。運動はストレスマネジメントにおいても大変意味があります。ストレッチやウォーキングなど無理のない範囲で体を動かすことも治療への第一歩となります。
またガス型の方は腸に空気を送り込んでしまいやすい早食いや、すすりながら飲む熱い飲料、炭酸飲料はなるべく避けることも改善に繋がります。便秘型の方は、便意のタイミングを逸しないよう生活リズムを工夫してみましょう。
過敏性腸症候群(IBS)の心理療法
そして過敏性腸症候群(IBS)はストレスなど心因により症状があらわれる病気のため、精神面でのケアは大変重要です。不安やストレスの原因となっているものを突き止め、解消していくことは治療のために欠かせませんし、医師との相談の上必要に応じてカウンセリングやメンタルクリニック、心療内科、あるいは精神科での受診も有効と言えます。
不安解消の薬物療法として抗うつ剤や抗不安剤などが処方されることもあります。セルフケアとして、自己催眠状態で深いリラックス状態へと導く自律神経訓練法は過敏性腸症候群改善への一定の効果が認められています。
過敏性腸症候群(IBS)の薬物療法
生活習慣の見直しだけでは改善へと至らない場合、薬物療法が使われます。
過敏性腸症候群への第一段階の薬
・整腸剤
薬物療法の第一段階で用いられるのがビフィズス菌などの整腸剤です。腸内環境をよりよい状態へと導くサポートをします。市販の薬としても入手可能なものが多いです。どのタイプにも使用できるものとしてコロネルなどが代表的な薬となります。
下痢型のための薬
・高分子重合体
水分を吸収する作用で便の水分バランスを整えます。
・セロトニン3受容体拮抗薬
腸の蠕動運動の異常を改善へと促し、下痢の症状を緩和します。
・抗コリン薬
お腹の痛みに有効です。
・漢方
ストレスで下痢がはじまるタイプには甘草瀉心湯、痩せ型で手足やお腹に冷えがあり下痢が続くタイプには人参湯など。
・他、止瀉薬など
病院で処方されるものもありますが、市販の薬と同様のものが処方される場合もあります。
便秘型のための薬
・セロトニン4受容体刺激薬
腸の動きを活発にして便意を促し、便秘解消へと導きます。
・漢方
体力が中程度で緊張が取れないタイプには小柴胡湯号桂枝加芍薬湯、体力が低下したタイプには桂枝加芍薬大黄湯などが処方されます。
・他、便秘薬など
病院で処方されるものもありますが、市販の薬と同様のものが処方される場合もあります。薬物療法には副作用のリスクが常に伴うこと、また根本的な改善にはなかない至らないケースも多いのが現状です。
過敏性腸症候群(IBS)の最新の治療法とは
生活習慣の見直しや心理療法、薬物療法によって一定の改善はあるものの、症状が長期に及ぶ場合は根本的な治療効果が出ていないことも事実です。そこで過敏性腸症候群(IBS)の最新の治療方法として注目を集めているのが、腸内フローラ治療です。
患者さんがどのような腸内細菌叢(腸内フローラ)であるかを腸内フローラ検査で確認し、検査結果から適切な乳酸菌をマッチングさせることで腸内フローラのバランスを整えます。
腸内環境が整えば自律神経の乱れも改善するため、長年悩まされていた過敏性腸症候群の症状から回復に至るケースが既にかなりの数に上っています。
また、口腔内の金属が原因のアレルギーやガルバニー電流なども自律神経に悪影響を与えるため、それらの有無を確認して原因と考えられる場合は取り除いていくことも効果的な治癒に繋がります。
一般の診療で行われる血液検査や内視鏡検査では一人の体に1200種 100兆個存在すると言われる腸内フローラを検査することはできません。
当クリニックでは腸内フローラ検査と口腔内金属アレルギー検査をいち早く取り入れ、数多くの治療実績を上げております。お腹の悩みのない、心地よい毎日を過ごしませんか? ぜひ一度当クリニックにご相談ください。
監修:長岡 美妃
現代医療に携わりながら病の根本原因、医療本来の在り方、さらに真の社会の在り方、女性の生き方を追求している医師。 東京女子医大消化器外科センターにて癌の外科治療に従事。
その後、福岡の秋本病院にて緩和ケアセンター長として多数の方の精神的苦痛を和らげてきた経験をもつ。 内視鏡の技術にも定評がある上、コミュニケーション能力が非常に高く、患者様からの信頼がとても厚い。 著書:『「真の」医療者をめざして』 他