日本人は先天的に顎の骨が小さい割に歯が大きく、特に前歯が大きいのが特徴と言われています。
歯列問題の中でも「不正咬合」、特に「口ゴボ」と診断され悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
この記事では、下記について解説します。
- 口ゴボとは
- 口ゴボで困ること
- 口ゴボの原因
- 口ゴボの治療方法
最後まで読んでいただければ、口ゴボの原因や予防、そして治療法などが理解できる内容となっています。
「口ゴボについて知りたい」「口ゴボでコンプレックスを抱いている」「口ゴボを治したい」方は参考にしてください。
口ゴボとは
口ゴボとは、歯の前突が原因で口元がモコッと前に飛び出したようなお口の状態を言います。
前に突出した歯を覆うため、鼻の下が長く見えたり、横から見ると鼻先と口元がほぼ同じ高さになるほど飛び出して見える場合もあります。
歯科学的には上下顎前突といわれ、上と下の歯が突出し唇がもっこりしている状態です。
治療が必要な病気ではない
口元が出ているからと言って重篤な「病気」ではありません。
正常咬合(正常な噛み合わせ)ではなく、不正咬合の1つです。
口ゴボは病気ではないけれどもコンプレックスを感じられる方がたくさんいます。
口ゴボ以外の不正咬合
口ゴボ以外の不正咬合には以下のものがあります。
- 出っ歯/上顎前突(じょうがくぜんとつ)
- 受け口/下顎前突(かがくぜんとつ)/反対咬合(はんたいこうごう)
- 乱杭歯(らんぐいば)/叢生(そうせい)/八重歯(やえば)
- 切端咬合(せったんこうごう)
- すきっ歯/正中離開(せいちゅうりかい)
- 開咬(かいこう)
- 交叉咬合(こうさこうごう)
- 深いかみ合わせ/過蓋咬合(かがいこうごう)
症状の度合いにもよりますが、不正咬合は歯科クリニックで矯正できるのでかかりつけの歯科クリニックにご相談してください。
口ゴボと出っ歯は別の不正咬合
口ゴボと出っ歯はよく混同されますが、厳密に言えば両者は区別されます。
口ゴボは、口元が全体的に前にもっこりしている症状を指します。
それに対して出っ歯は上の歯のみが出っ張っている症状です。
下唇の出っ張りがなく前歯だけが出っ張っている場合は、口ゴボではなく出っ歯ということになります。
口ゴボで感じるコンプレックス
口ゴボは顔の印象に大きく影響します。
悪く言えば口元がもっこりして猿のように見え、審美性が低いと捉える人が多い症状です。
また、口ゴボは見た目以外に健康面においても悪影響を及ぼすことがあり、歯科の立場からは治療した方が良いとされています。
口ゴボが身体に及ぼす影響(口ゴボで困ること)
口ゴボは口腔衛生と精神衛生の面で健康に悪影響を及ぼします。
- 咀嚼(そしゃく)や発音に影響したり、口が開きやすく口腔内が乾燥しがちになり口腔乾燥症(ドライマウス)になる
- 唾液の自浄作用がうまく機能しないため、細菌の繁殖を招き「虫歯」「歯周病」のリスクが高まる
軽度のドライマウス
口腔乾燥症(ドライマウス)の軽い症状は主に口の中で、以下の状態になります。
- ネバネバ感がある
- ヒリヒリする
- う蝕
- 歯垢の増加
- 口臭も強くなる
乾燥によって虫歯や歯周病が起こりやすくなります。
重度のドアライマウス
重度のドライマウスになると、唾液分泌量が低下し口腔内の乾きが進行し、以下の状態になります。
- 強い口臭
- 舌表面のひび割れ
- 痛みによる摂食障害
- 会話への障害
時には、強い痛みから不眠を訴える方もいます。
精神衛生上の問題
精神衛生上の問題が口ゴボが抱える最も大きなデメリットと言えます。
口ゴボの見た目により幼少期から、以下のような症状に悩まされる人もいます。
- 口ゴボが原因でからかわれた
- つい口元を手で隠してしまう
- 人前で口を開けて笑えなくなった
見た目のコンプレックスは精神衛生上、悪影響を及ぼし口ゴボが原因で気分の落ち込みからふさぎがちになります。
口ゴボになる4つの原因&子ども特有のアデノイド肥大
口ゴボになる原因は4つあると言われています。
口ゴボの原因を知ることで口ゴボにならないための予防や、子どもが将来口ゴボにならない対策を立てることも重要です。
<口ゴボになる原因>
- 骨格遺伝
- おしゃぶりなどの習慣
- 舌の長さや位置
- 口呼吸
1.骨格遺伝
まず原因の1つ目として、骨格遺伝が原因で口ゴボとなる場合です。
顎の骨格や歯の生える位置は親の遺伝による場合が多くあります。
遺伝から来る先天的な口ゴボだとしても歯列矯正は可能です。
ただし、顎関節や骨格異常などの場合は、外科治療が必要となることもあり得ます。
2.おしゃぶりなどの習慣
次に挙げる口ゴボの原因はおしゃぶりです。
赤ちゃんの頃におしゃぶりを使用した、または赤ちゃんにおしゃぶりを使用している方は多くいるでしょうが、おしゃぶりの使用期間が長いと口ロボになる可能性があります。
おしゃぶりが口ゴボに影響するのは、顎の骨が成長する時期におしゃぶりを口に入れておくことにより、前歯が自然と前に突出するように成長してしまうからです。
おしゃぶりは何歳まで?
おしゃぶりや指しゃぶりはできれば2歳くらいまでにやめさせるのが良いとされています。
2歳ごろになると乳臼歯(にゅうきゅうし)と呼ばれる奥歯が生え始め、今までは「吸う」ことに専念していた口の動きが、次第に「噛む」ことに変化します。
この頃に、まだおしゃぶりを使用したり指しゃぶりをしていると歯並びに影響が出やすいとされています。
3.舌の長さや位置
原因の1つに舌の位置が口ゴボと関係します。
舌の位置が口ゴボと関係するのは、「舌が長い」または「舌が前に位置している」そうした方が無意識のうちに前歯を舌で押し続けている場合です。
舌の長さや位置は遺伝によるものですが、舌で前歯を押す癖、舌癖(ぜつへき)を持つ方もいます。
舌癖も原因となる
特に幼児は歯の生え始めや歯の入れ替わり時に、違和感から舌で触ることを繰り返し(上記の写真参照))舌癖になるので注意が必要です。
4.口呼吸
口ゴボの原因として口呼吸があげられます。
口呼吸をする際にはどうしても少し口が開いた状態が続いてしまいます。
日常的に口呼吸をして口が開いた状態では、唇や頬の筋肉が弱まり舌の筋肉が前歯を押してしまうので口ゴボになってしまいます。
口ゴボのもう1つの原因、アデノイド肥大(子ども特有)
口ゴボのもう1つの原因として、アデノイド肥大があります。
アデノイドとは喉付近に位置するリンパ組織で肥大化した状態がアデノイド肥大です。
アデノイド肥大を放置すると顔の形に影響(アデノイド顔貌)したり、口元がもっこりしている口ゴボになる可能性があります。
アデノイド肥大は子ども特有の病気
アデノイドは2歳~5歳ぐらいがもっとも大きく、その後は次第に小さくなる傾向があります。
小さい子どもは骨格や筋肉が十分発育していないので、相対的にアデノイドや口蓋扁桃が喉の中で占める割合がおおきいとされています。
アデノイド肥大は子ども特有の病気で「何が原因で大きくなるのか?」「なぜ症状が現れるのか」はハッキリと解明されていません。
アデノイド肥大の症状
アデノイド肥大により次のような症状があらわれます。
- 鼻づまりがひどい
- 普段から鼻声だと言われる
- 鼻呼吸がしづらく口呼吸になる
- 口が開いていると指摘される
- いびきがひどい
アデノイド肥大の合併症①
- 鼻水の流れを妨げるため「慢性副鼻腔炎」
- 症状の長期化により「口を開け舌をつきだした顔つき(アデノイド顔貌)」・「口ゴボ」
- 胸郭の変形をきたす「漏斗胸」・「鳩胸」
- 中耳と咽頭は耳管でつながっているため「滲出性中耳炎」
- 中耳炎から「軽度の難聴」
などを引き起こす恐れがあります。
アデノイド肥大の合併症②
アデノイド肥大により、成長障害や集中力低下のため学習障害を引き起こすことがあります。
重い呼吸障害が長く続くと、睡眠時の血中酸素濃度が低下し「脳にダメージ」を与える可能性もあり注意が必要です。
また、心臓に負担がかかり重篤な合併症として「心不全」や「肺高血圧症」などを引き起こすこともあります。
軽度のアデノイド肥大の治療(服薬・点鼻薬)
風邪や急性の炎症でアデノイドが一時的に腫れている際には、炎症を抑える薬の服用や、点鼻薬で症状を抑え、経過観察を行います。
ただし、アデノイド肥大が常態化している症状では薬による治療はあまり効果がありません。
合併症を起こしているアデノイド肥大の治療(切除手術)
アデノイド肥大は一般に8歳~10歳ぐらいでアデノイド自体が小さくなっていくので症状が軽くなっていきます。
ただし、合併症を生じている場合は切除する手術を行いますが、症状が多様であるため疑わしい症状がある時は耳鼻咽喉科を受診するようにしてください。
口ゴボ矯正方法|マウスピース矯正・表側矯正・裏側矯正それぞれの特徴
口ゴボは、歯列矯正治療で改善できます。
歯列矯正には、マウスピース矯正・表側矯正・裏側矯正の3種類があり、生活習慣や歯並びの状態により矯正治療の方法が異なります。
マウスピース矯正
マウスピース矯正は、マウスピースを矯正用に作成し、歯並びを整えるために装着する方法です。
治療方法 | 矯正用マウスピースを装着 |
メリット | 自分で着脱可能で矯正治療中だとわかりにくい点、歯磨きの邪魔にならず口内の健康を保ちやすい |
デメリット | ・場合によって他の方法と組み合わせる必要がある ・自分で外せるため自己管理が重要 |
治療期間 | 数ヶ月〜約2年 |
治療費相場 | 約30〜80万円 |
表側矯正
表側矯正とは、歯の表側に器具を取り付けて歯列矯正する方法です。
表側矯正は治療として用いられた歴史も長く症例も多いため、信頼できる治療とされています。
表側矯正のメリット
歯の表面に取り付けられたワイヤーの張りを調整することで矯正を施していくため、幅広い症例に対応することができます。
表側矯正のデメリット
歯の表面に器具を装着することで、多くの人は見た目が気になる点がデメリットです。
しかし、最近では半透明の器具での治療も選択可能となっています。
治療方法 | 歯の表面に器具を装着 |
メリット | 歴史が長く治療実績が多いので幅広い症例に対応可能 |
デメリット | ・器具が外から見えるため顔の印象に影響がある ・歯磨きや食事の際に器具が気になることがある ・人によっては痛みを感じることがある |
治療期間 | 数ヶ月〜約2年 |
治療費用の相場 | 約80〜100万円 |
3.裏側矯正
裏側矯正は表側矯正と同じように、歯に器具を装着する治療方法です。
ただ、裏側矯正では矯正器具を歯の裏側(舌側)に装着する点が表側矯正と違いと言えます。
表側矯正と同様にワイヤーの張り具合で矯正するため幅広い症例に対応可能です。
合わせて矯正器具が見えないので、矯正しているのを知られることも少なく見た目を気にする必要がないのがメリットです。
裏側矯正のデメリット
表側矯正と同じように、矯正器具の取り外しは歯科医師でないと行えません。
また、食事の際や歯磨きの際の違和感が大きいのが特徴で、人によっては痛みもあるようです。
そして、歯並びを歯の裏側につけた器具を使って調整するため、表側矯正よりも数段高い技術が必要となり、価格も他の矯正方法よりも高額となります。
裏側矯正を行う場合は、信頼できるクリニック選びがより重要となると言えます。
治療方法 | 歯の裏側に器具を装着 |
メリット | ・外から器具が見えにくい ・幅広い症例に対応可能 |
デメリット | ・歯磨きや食事の際に器具が気になることがある ・人によっては痛みを感じることがある ・歯科医の中でも高い技術が必要 ・価格が高い |
治療期間 | 数ヶ月〜約2年 |
治療費用の相場 | 約100〜150万円 |
4.そのほかの矯正方法
- 「前歯の突出が特に大きい場合」
- 「歯の間隔が詰まっている場合」
上記のようなお口の状態で矯正が難しい場合は、抜歯してスペースを作り、開いたスペースへを埋めるように残りの歯を移動させて矯正する方法があります。
抜歯する箇所は基本的に目立たない位置を医師が「見た目」や「歯の寿命」や「期待される効果」など、さまざまな点を考慮して決めます。
残りの歯を移動させる方法は、上述した3種類のいずれかあるいは複数を組み合わせて治療します。
口ゴボ矯正の流れ
口ゴボ矯正の流れは、主に4段階に分かれます。
1.診察・カウンセリング
2.矯正期間
3.矯正期間の終了
4.リテーナー装着
1.診察・カウンセリング
カウンセリングや歯科医師による診察を受けてから治療が始まります。
診察やカウンセリングでは、現在の歯並びの状態と目指す姿を確認し、最も適した治療方法を医師と擦り合わせてください。
ポイント
口ゴボの矯正治療は時間のかかる治療です。
歯並びに関することだけでなく、普段のライフスタイルや生活習慣も伝え、無理なく続けられる方法を選びましょう。
2.矯正期間
選択した治療法によって治療を開始しますが、矯正期間中は定期的な歯科医師の確認と調整を受ける必要があります。
ワイヤー矯正(表側・裏側矯正)
ワイヤー矯正の場合、定期的に歯科医院へ通院し、状態の確認と歯科医師によるワイヤーの調整を受けます。
マウスピース矯正
マウスピース矯正は、歯科医師の観察に基づき定期的にマウスピースを作り直して交換することで治療を進めていきます。
3.矯正期間の終了
カウンセリングで擦り合わせた歯並びになったら矯正期間は終了です。
ワイヤー矯正の場合は歯科医師に器具を取り外してもらいます。
舌癖が認められる場合
口ゴボの原因となる舌の癖などがある場合は、MFT(口腔筋機能療法)と呼ばれるリハビリを行い、癖を直していきます。
4.リテーナー装着
矯正期間が終了した後、しばらくの間は「リテーナー」と呼ばれるマウスピースのような器具を装着しなければなりません。
リテーナーは、矯正終了したのち歯が元の位置に戻ろうとするのを防ぐために装着します。
リテーナーを正しく装着しないと、せっかく矯正したのに後戻りする可能性があります。
リテーナー装着期間
リテーナーの使い方や必要な装着期間については、主治医の説明をよく聞き、その指示に従い後戻りを防ぎましょう。
まとめ
口ゴボ矯正は、歯に力を加えて徐々に歯並びを整えていく歯列矯正治療です。
歯列矯正は数ヶ月あるいは数年かかる根気のいる治療と言えます。
望んだ通りの結果を得るためには、信頼できる歯科医師とともに「目指す姿」をしっかりと共有し、自分の生活習慣に合った治療方法で治療を受けることが大切です。