歯列矯正の手段として、従来はワイヤー矯正を行うのが一般的でしたが、近年はマウスピース矯正の人気が高まっています。
「マウスピース矯正とワイヤー矯正、どちらを選べば良いか判断が難しい」と思っている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、マウスピース矯正とワイヤー矯正の違いについて解説します。
それぞれにメリット・デメリットがあるので、比較しながら治療方法を検討すると良いでしょう。
どちらの矯正方法が皆さんに向いているのかについても解説しますので、参考にしてください。
〇この記事から分かること
- ワイヤー矯正の特徴
- マウスピース矯正の特徴
- ワイヤー矯正とマウスピース矯正の違いについて
- ワイヤー矯正が向いている人
- マウスピース矯正が向いている人
- ワイヤー矯正とマウスピース矯正の併用について
ワイヤー矯正・マウスピース矯正とは
ワイヤー矯正とマウスピース矯正の違いについて説明する前に、それぞれの治療方法や特徴について解説します。
どちらか一方のみ検討しているという方も、両方の治療法について知っておきましょう。
ワイヤー矯正とは
ワイヤー矯正は、まず歯にブラケットと呼ばれる装置を取り付けます。
そこにワイヤーを通して動かしたい方向に適切な力をかけて歯を動かしていく矯正方法です。
オーソドックスな治療法で適応範囲が広いため、最も実績が多いという特徴があります。
ワイヤー矯正で歯が動く仕組み
歯の周りには、歯を支えるための骨(歯槽骨)があり、歯槽骨と歯の根っこの部分(歯根)の間には歯根膜というクッションのような役割を持つ薄い膜があります。
1.ワイヤー矯正によって歯に力が加わると歯根膜に伝わり、歯が動く方向側の歯根膜は縮み、反対側の歯根膜は引っ張られて伸びます。
2.一定の厚さを保つ性質を持つ歯根膜は、縮んだ歯根膜は元の厚さに戻ろうして骨を溶かす細胞に作用して、動く方向にある骨を溶かします(吸収)。
3.反対側の伸びた状態の歯根膜は、元の厚さに戻ろうと骨を作る細胞に作用して、反対側にできた隙間に新たに骨を作ります(再生)。
吸収と再生を繰り返すことで少しずつ歯が動いていくのです。
ワイヤー矯正の種類
ワイヤー矯正は、ブランケットとワイヤーをつける場所によって、以下の3種類に分けられます。
- 表側矯正…歯の表側に装着する
- 裏側矯正…歯の裏側に装着する
- ハーフリンガル矯正…上顎の歯は裏側に、下顎の歯は表側に装着する
それぞれ、目立ちやすさ、適応症例の広さに違いがあるため、自分に合ったものを選びましょう。
ワイヤー矯正装置の種類
「表側矯正は目立つから嫌だ」という方は多いかもしれません。
目立たないワイヤー矯正を希望としている人は、歯に装着するブラケットとワイヤーの種類を変えることで不満を解消できます。
矯正装置の主な種類は以下の5つです。
- メタルブラケット
- プラスチックブラケット
- ジルコニアブラケット
- セラミックブラケット
- ホワイトワイヤー
それぞれの特徴についてまとめたので、参考にしてください。
装置の種類 | 特徴 |
---|---|
メタルブラケット | 最も一般的なブラケット。 金属製なので丈夫で壊れにくく、装置の破損が少ない。 費用が比較的安い。 目立ちやすい。 |
プラスチックブラケット | 金属アレルギーのひとでも使用できる。 目立ちにくい。 変色しやすい。 |
ジルコニアブラケット | 美しい見た目。 強度に優れるがメタルブラケットより劣る。 価格が高い。 |
セラミックブラケット | 歯の色に近く目立ちにくい。 価格が高い。 |
ホワイトワイヤー | 白いため目立ちにくいワイヤー。 |
マウスピース矯正とは
マウスピース矯正は、透明なプラスチック素材のマウスピースを少しずつ形の違うものに交換していき、徐々に歯を動かしていく矯正方法です。
ワイヤー矯正との大きな違いは、矯正装置は取り外しが可能という点です。
マウスピース矯正で歯が動く仕組み
マウスピース矯正もワイヤー矯正と同じく、歯根膜が元の厚みに戻ろうとする性質を利用して、少しずつ歯を動かしています。
マウスピース矯正ではブラケットなどを使わず、歯と歯茎全体を包み込むマウスピース型の矯正装置を使います。
このマウスピースは元の歯よりもほんの少し理想の歯並びに近い形に作られているため、本来の歯とは少しズレが生じている状態です。
マウスピースを装着することで、ズレの向きに歯に圧力がかかるため、歯が動いていきます。
マウスピース矯正の種類
マウスピース矯正装置は世界中で多くの種類があり、取り扱っている装置は歯科医院によって異なります。
その中で最も有名なものは「インビザライン(Invisalign)」と呼ばれるマウスピース矯正です。
インビザラインは、世界100ヵ国以上で使われ、900万人以上の人が治療を受けた実績のあるマウスピース矯正です。
コンピューターを使って作成した透明なマウスピースを段階的に付け替えることで、綺麗な歯並びへと導いていきます。
ワイヤー矯正とマウスピース矯正はどちらが優れている?
歯列矯正を検討している方で、ワイヤー矯正かマウスピース矯正かで迷われている人は多いかと思います。
そこで、両者の違いについて、メリットやデメリットを踏まえながら説明していきますのでご確認ください。
見た目について
ワイヤー矯正とマウスピース矯正は見た目が大きく異なります。
ワイヤー矯正は歯の表面にブラケットやワイヤーを装着するため、どうしても目立ってしまいます。
ワイヤー矯正では装置の素材や取り付ける場所を工夫して目立ちにくくすることも可能ですが、その場合費用が大きくかかってしまいます。
一方で、マウスピース矯正の装置は薄く透明なプラスチック状のものなので、装着していても他の人に気づかれにくいです。
適応症例について
適応症例の範囲が広いワイヤー矯正に比べ、マウスピース矯正は治療可能な範囲が限られ、適応しない症例があります。
特に
- 重度の受け口
- 重度の出っ歯
- 重度の叢生(ガタガタの歯並び)
など、歯を大きく動かす歯体移動が必要な場合はワイヤー矯正の方が適しています。
マウスピース矯正が可能かどうかは医師の判断が必要になりますが、軽度な歯並びや噛み合わせの乱れなど、治療難易度が低いものの方がマウスピース矯正が向いていると言えるでしょう。
装着の痛みや違和感について
マウスピース矯正はワイヤー矯正に比べ、装着時の痛みが少ないと言われています。
どちらの治療法でも歯を動かすので、痛みや違和感が全くないということはありません。
しかし、ワイヤー矯正は装置が口の中の粘膜に当たって痛みや違和感が出やすいです。
一方で、マウスピース矯正は装置を交換した直後に痛みや違和感が出ることはありますが、時間が経つとおさまってきます。
また、弾力性がある装置のため、装置が当たることで痛みを感じることはほとんどありません。
歯磨きのしやすさについて
ワイヤー矯正はブラケットやワイヤーなどの装置が複雑に歯の表面に付いているため、歯磨きがしにくいです。
そのため、矯正中に歯磨きの磨き残しができてしまい、矯正後に虫歯の治療が必要になってしまったというケースも多くあります。
一方で、マウスピース矯正は、歯磨きの際に装置を外して洗えるので、虫歯や歯周病になるリスクを軽減できます。
治療期間について
症例によって治療期間は異なりますが、ワイヤー矯正は全体矯正の場合は1〜3年程度、部分矯正の場合は2ヶ月〜1年程度が目安となっています。
マウスピース矯正の治療期間は半年〜3年程見ておきましょう。
いずれの場合も、歯列矯正が終了した後は、歯が矯正前の状態に戻ろうとするので、リテーナーと呼ばれる装置を装着して元に戻るのを防ぐ保定期間が1〜2年程度必要となります。
しかし、マウスピース矯正の場合、装置を正しく付けないと治療期間が伸びてしまいます。
また、装着時間は、1日約20時間以上となっており、それよりも短いと効果を得られなくなる可能性があるため、注意しましょう。
金属アレルギーに対して
矯正治療で使用する素材の中で金属アレルギーを引き起こす原因となるものとして、ニッケルやクロムがあります。
マウスピース矯正はプラスチック素材を使用しているので金属アレルギーを心配する人でも安心して使用できます。
日常生活の自己管理について
ワイヤー矯正は矯正装置の脱着ができないので、紛失する心配はありません。
しかし、食べ物が歯や矯正装置にくっついたり挟まったりしやすくなります。
そのため、以下の自己管理が必要です。
- 磨き残しがないよう丁寧に歯を磨く
- 挟まりやすいもの、硬すぎるものを食べるのを控える
一方、マウスピース矯正で気をつけなければならないのは装置の紛失です。
食事や歯磨きの際は脱着するため、外したまま装着するのを忘れて無くしてしまう、ということがないように管理しなければなりません。
あなたに向いている歯列矯正は?
ワイヤー矯正とマウスピース矯正それぞれの特徴やメリット・デメリットを説明しましたが、それを踏まえて皆さんにはどちらの歯列矯正がおすすめなのかをお話しします。
矯正方法は最終的に歯科医師の判断が必要にはなりますが、参考にしていただけたらと思います。
ワイヤー矯正が向いている人
ワイヤー矯正が向いている人は、以下のような人です。
- 矯正装置を外すのが面倒な人
- 矯正装置の見た目が気にならない人
- 歯並びが大きく乱れている人
これまで数多くの症例実績があり、歯並びの乱れや噛み合わせの問題が重度の方でも、ワイヤー矯正なら対応できる可能性が高くなります。
マウスピース矯正が向いている人
マウスピース矯正が向いている人は、以下のような人です。
- 歯列矯正を目立たない装置でしたい人
- 1日20時間以上装着し続けられる人
- 金属アレルギーの人
- 装置を清潔に保ちたい人
- 治療の痛みを少なくしたい人
- 歯並びの乱れが少ない人
マウスピース矯正は装着していても、目立ちにくく取り外しができるなどのメリットが多いため、女性を中心に人気の矯正治療です。
マウスピース矯正とワイヤー矯正を併用して治療時間を短縮
近年では歯体移動を得意とするワイヤー矯正とマウスピース矯正を併用する歯科医院もあるのです。
基本的に、ワイヤー矯正で歯を大きく動かしてから、マウスピース矯正で歯列を整えるという方法となります。
マウスピース矯正とワイヤー矯正を併用することで、以下のメリットがあります。
- 適応症例を増やせる
- マウスピース矯正とワイヤー矯正の両方のメリットを活かせる
- マウスピース矯正だけの時よりも治療期間を短くすることができる
実際に併用できるかどうかは、医師に相談してみましょう。
違いを知って自分に合った矯正方法を選ぼう
マウスピース矯正とワイヤー矯正の違いについて解説しました。
それぞれにメリットやデメリットがあるので、自分に合っているのはどの矯正方法なのかを検討しておきましょう。
希望の治療ができないケースもあるので、どちらが適しているかは、最終的には歯科医院での診断が必要です。