微生物に関してのブログ

2020/09/08 ブログ

Dr.陰山のキンログ①

高層大気から胃の中まで――どこにでもいる微生物

 人類は長い間微生物についてほとんど注意を払っていませんでした。微生物とは小さすぎて肉眼では見えないものすべて――10分の1ミリ未満のもの――が微生物だと考えられています。細菌は微生物の中でもっとも研究されているもので、その中でも特によく知られているのがエシェリキア・コリ(大腸菌)、略してEコリです。長さ2ミクロン――1000分の2ミリ――の大腸菌は、親指のまわりをぐるりと取り囲むのに、端から端まで4万個近くを必要とし、終止符(ピリオド)の直径に100個が入ります。細菌がピッチャーマウンドの大きさだとすれば、人間はカリフォルニア州ほどの大きさです。

 なりは小さいが、微生物は地球上でもっとも数が多く、もっとも広く分布し、もっとも繁栄している生物です。骨が化石記録として残っている生物種の99パーセントは、時の試練に耐えられず絶滅しています。ところが微生物は、生命が誕生したときから、36億年以上生き残っています。その短い寿命を考えれば、ざっと計算して800兆世代を経ています。全部合わせると、地球上には10の30乗個の微生物といると推定されています。1のあとにゼロが30個――1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000――つく。1個1個の微生物は小さすぎて見えないが、全部一つながりにすると1億光年の長さにもなります。夜空に見えるもっとも遠くの星までの距離を超えているのです。地球上の微生物は、既知の宇宙にある星の数より100万倍以上多いわけです。一握りのよく肥えた土の中には、アフリカ、中国、インドに住む人間の合計より多くの細菌がいます。そして全体で、微生物は地球中に棲む生物の重さの半分を占めると推定されています。

 微生物は数が多いだけでなく多様性に富み、大きく五つの類型に分類されます――古細菌、細菌、菌類、原生生物、ウイルスです。種の区分は微生物においては不安定な概念ですが、微生物の世界には数百万から数億種があると生物学者は推定します。

 古細菌(アーキア)はもっとも古いものです。かつては細菌だと思われていましたが、細胞膜の化学組成と構造が、普通の古代の細菌とまったく違っています。菌類の中には、酵母菌のように顕微鏡でないと見えないものも、キノコ(子実体)のように簡単に見られるものもある。原生生物にはアメーバ、珪藻、その他諸々の奇妙な形をした単細胞生物が含まれます。菌類と原生生物のDNAは細胞核に収められているが、古細菌と細菌はそうなっていません。

 ウイルスは区分けを考える際に私たちを混乱させます。それは細胞からできておらず、生き物のようなことをしているが、生きていない。科学者の中にはウイルスは微生物だと考える者とそうでないと考える者がいます。しかしウイルスが生命を利用しているのは確かです。ある種のウイルスはバクテリオファージと呼ばれ(細菌だけに感染するため)、小さな宇宙船のように細菌の表面にドッキングして、細胞に搭載遺伝子を注入することがます。ここからウイルスの生殖周期が始まり、宿主の細菌はだまされてウイルスのコピーを大量に作る――自分を犠牲にして。

 古細菌は今のところ、植物や動物(人間を含む)に病気を引き起こすとは考えられていませんが、菌類は植物の病害の大きな原因であり、人間の病気を引き起こすこともある。細菌、原生生物、ウイルスは動物やヒトの主要な病原体であり、植物にも大きな被害をもたらします。

 それぞれの微生物のタイプは、細胞構造の違いから、効果がある抗生物質も異なります。細菌に効果のある薬剤は、通常古細菌に対しては効果がありません。抗菌剤は菌類やウイルスには無効です。抗真菌剤は細菌には働きません。もっともこうした薬が人体に負担となることもあります。

どこにでもいる微生物

 どんなに微生物のことを意識の外に追い出そうとしても、ほとんどどこにでもいるため無視することはできません―自然のあらゆる表面、水の一滴一滴、砂の一粒一粒にいたるまでありとあらゆるところに存在するわけです。過去数十年にわたり、科学者は、調べた場所のどこからも微生物を確実に発見しています。近年、地球マイクロバイオーム・プロジェクトのような計画が承認され、全世界のマイクロバイオームを把握し、正確に記述する大規模な科学的取り組みが進められています。それは生命という家の隠された地下室、今まで想像されていた以上に活発で、広がりを持ち、影響力のある場所なのです。

 人類が微生物の世界を探究するうちに、わかってきたことが多々あります。たやすく見ることのできるもの――海洋、森林、河川、砂漠――に比べると、微生物の生態系について私たちははるかに何も知らないということです。微生物に満ちた土壌は、空気、水、鉱物表面が境界を接する活気あふれる場所だ。過去数十年間に土壌生態学者が明らかにした微生物の多様で高度な特殊化は、実に驚くべきものです。古い考えでは、あらゆるものがあらゆる場所にいる、つまり微生物界は地球全体で完全に混ざり合っていて、地球の環境条件によって、どの種がどこで繁栄するかが決まるとされていたのです。それは後に完全な間違いであることがわかります。

 2012年、10人の生物学者からなる研究チームが、世界中の土壌で微生物群集を構成する種を分析した。微生物群集はすべて同様の仕事、たとえば有機物の分解、水の浄化、土壌肥沃度の回復といったことをしていました。しかしそれぞれの群集には、地域の環境や共に棲息する動植物に合わせて、まったく違った種の組み合わせが見られるときわめて大きな多様性がみられる。だが、砂漠や極地のように温度や湿度が低い環境では、有機物がずっと少ないので、その仕事をする種は少なくなるのです。そして私たちが知っている地上の生態系と同様、地下で一種類が減ると全群集に波及して、劇的な変化が起きることがあります。しかし肉眼で見える世界とは違い、微生物の生態では誰が主役か――ましてそれが異なる環境でどのように協力したり敵対したりするのか――はっきりとわかっていないのです。

 近年、地球生物学(地質学の成長著しい下位分野)の進歩により、微生物はもっとも世界を股にかけた生物だということも明らかになっています。あらゆる生命体の中で、微生物は一番たかいところから一番低いところまでを占めている。細菌は地球の高い天井である高層大気を巡り、雲の水滴の中で増えます。また古細菌は、深海底に開いた煮えたぎる噴出孔付近にさえ棲むことができるのです。

 微生物がほとんどどこにでもいるのは、非常に順応性が高いからです。他の生物が生きていかれない場所でも、信じられないほど多種多様なものを餌として、微生物は生きていくことができるのです。極限環境微生物として知られるある種の古細菌は。地球上でもっとも過酷な高温、低温、乾燥に耐えられる。深海底を探査する地質学者は、「ブラック・スモーカー」つまり海底から5~10メートル突き出した天然の煙突の上やまわりに微生物群集が棲息しているのを発見されています。そこは水温が400℃に達しているにもかかわらず、高い水圧のために水が液体の状態を保っていられるような場所なのです。面白いことに古細菌は、南極の氷の下800メートルに閉ざされた湖でも見つかっています。

 科学者はチリのアタカマ砂漠でも微生物群集を見つけていますが、ここは雨が降らず、川面湖もない場所です。その環境はNASAが火星探査機の実地試験に使ったほどです。地球上の大部分では、水がないということは生命が存在しないということですが、2005年に、アタカマ砂漠にある干上がった塩分を含む太古の湖底の土中から、生きた細菌が発見されています。どうやって生きていられる可能性があるか?きわめて興味深い世界です。
 近ごろ、考察をさらに一歩進める科学者がでてきました。微生物は火星で発生し、その後隕石に乗って地球にやってきたのかもしれないという説を唱えるチームです。宇宙船なしでの火星からの道中、放射線に晒された微生物は、本当に生きていられただろうか?私たちはすでに、その素質を持つ微生物が存在するのです。

 デイノコッカス・ラディオデュランスは驚くほど放射線の耐性を持つ――そして極度の高温、低温、酸への暴露にも。1950年代に、研究者は致死レベルの放射線を肉の缶詰に当て、それから缶を開けた。中にはD・ラディオデュランスの無傷の集落がありました。この回復力に富む細菌は、人間を殺すのに必要な放射線の1000倍に耐え、この性質のおかげで他の生物は生存できない原子力発電所の冷却槽の中で繁殖することができるのです。遺伝子を組み替えたD・ラディオデュランスを放し、放射性廃棄物を食べさせて浄化できるようできるのでは?と考えられています。

 

参考文献『The Hidden Half of Nature』

PDF:参考論文